「まずは炒めるのに時間がかかるものから、炒めるんだよ」

「じゃぁ、ベーコンだ」

「人参と玉ねぎからだね。玉ねぎはしんなりするまで炒めるんだ」

「しんなり?」

「見てて、ほらだんだん色が透き通ってきたでしょ」


まさか、小4の男の子に料理を教えて貰うことになるなんて。

手際良くチャーハンを作っていく恭哉くんを横目で眺めながら、情けない思いで撃沈していると、料理棚を開けた恭哉くんが「しまった」と呟いた。


「どうしたの?」

「醤油がきれてたんだ」

「買ってこようか?」

「うーん、ちょっとだけだし、下の階のおばあちゃん家に借りに行ってくるよ」

「ええ! 醤油を借りるの?」


そんな昭和じゃあるあいし。

お醤油くらい買いに行くよ、と言いかけた頃には、彼は玄関のドアから出た後だった。

ちょっと見ててって預けられた火が付いたままのフライパン。

え、これどうしたらいいの?


「あらあら、良い匂いしてるわね」


少しして、恭哉くんは70歳くらいの女性と一緒に戻って来た。白髪交じりの髪を低い位置でお団子にした上品そうなおばあちゃん。

この人が壱哉の言っていた、恭哉くんの面倒を見てくれる老夫婦の奥さんかな。

早く早くと急かす恭哉くんと並ぶと、本当の祖母と孫みたいだ。