おはよう、ってその一言だけでもいいんだよ。
楓くんと話せるならそれでいいの。
楓くんは人気者で、私なんか、眼中にもないんだろうけど。
少しツリ目で、はっきりした二重の目。
男の子って思えないくらい白くて、キメが細かい肌。
サラサラの黒髪に髪よりももっと深い黒色をした目。

小町ゆき、14歳。
おんなじクラスの男の子、久遠楓くんに、恋してます。



教室に入れば、騒がしい一日が始まる。
少なくとも私はそう思ってる。
勉強して、休み時間はいっぱいお話して、一番大切なのは、楓くんのことで悩む時間。
悩むのは嫌い。
でも、悩んでるときは楓くんが私の頭の中にずっといるから、それはそれで幸せだったりもする。
「おっはよーゆき!」
私のクラスの一群女子、八雲凛子ことりんりんが私なんかに挨拶をしてくれた。そう、私なんかに。
「おはよ、りんりん!」
女子同士のテンションが高い挨拶。
お転婆で、テンションが高そうに見られそうな私だけど、実はそういうのは苦手。
でも、りんりんは一群女子だから。
正直に言うと、あの子には逆らっちゃいけない。
このクラスでいじめられない、唯一の方法。
それにしてもりんりんって、名前と性格あってないよね。
こんなこと実際にいった日には私の学校生活が終わりを迎えちゃうね。

楓くん、まだ来てないのかな。
いつもは私よりもずーっと早く来てるはずなのに。
まさか、風邪とか!?
え、大丈夫かな!?
楓くんの安否は私にもかかわってくる。
少し、俯いた。
ぎゃいぎゃいと騒がしい男の子達の声がだんだん遠ざかって行って、思考の海の中へ潜っていっているような気がした。


どれくらい、考え込んで、落ち込んでいたんだろう。
とん、っと額に指を立てられた。
その痛みで現実へと引き戻された私は、顔を上げ、絶句した。
え、え、え。
いやいやいや、まさかね。
まさか楓くんが私の目の前にいるとかね、そんなことないよね。
「どーしたの、百面相なんかして。」
「ひゃ、百面相なんてしてないです!」
本物だあああああああああああ!
風邪とかじゃなさそう。
見た目じゃいつもと変わらずかっこいいし。
って何言ってんの私!?
突然、上から笑い声が降ってきた。
私の好きな楓くんの、少し控えめな笑い方。
「何笑ってるんですか!?」
恥ずかしくって、つい口調が強くなる。
「いや、なんでもないよ。ただ、見てるだけより話してる時の方がもしろいんだなぁって思って。」
見てる?
楓くんが?
私を?
いや、まぁ隣の席だもんね、今だけだけど。
うんうんそうだよね。
「また百面相してるー」
「してないですもんーからかっちゃ、めっ!ですよ!」
ちょっと話せるだけでよかったんだけどな。
話しちゃったら、もっと、もっとって欲が出ちゃうから。
「あー!楓と小町がいちゃいちゃしてるー!
リア充爆ぜろー!」
「まじかよー見損なったぜ楓(笑)」
楓くん以外の男の子って、みんなうるさいのかな。
話しただけなのに、冷やかさないでよ。
楓くんに迷惑でしょ?
「あのなー......
俊もほかの奴らもやめろよー小町が迷惑してるだろ。」
そんなことないんだよ、楓くん。
私ね、冷やかされてるのも、ちょっと嬉しんだよ。
だってね、好きな人とだよ?
嬉しいに決まってるじゃん。
そんな恥ずかしいこと、実際には言えないけど。
びしっと楓くんが言ってくれたおかげで、男の子たちは自分たちの席へ戻っていった。
やっぱり、かっこいいなぁ。