翌週末、私たちは自由が丘にあるスイーツの名店が立ち並ぶ通りを歩いていた。


お洒落なお店を覗いては「ここはどう?」なんてお互いに言い合ったりして、夏雪と私なのに意外とデートっぽいことをしてる。


夏雪は私服もきちんとしたスタイルで、麻の混ざったサラッとしたシャツを腕捲りして細身のパンツに合わせている。半袖シャツを着ないのは私服にも共通するポリシーのようだ。


普段はスーツ姿しか見ていないから、そのちょっとした変化にもドキッとする。



「透子が来てくれて助かりました。今日は頼りにしています」


こちらを振り返って微笑む様子は、暑中お見舞いのハガキとして全国に発送したいくらい爽やかで格好いい。


本来なら、こういう状況にしみじみとした幸せをを感じるんだろうけれど。


「まずは賄賂がなくては始まりません。

その女は甘味に目が無いそうですよ。」


「賄賂じゃない。手土産、ね。」


夏雪の物騒なミッションモードが続いているので「やれやれ」と思うばかりだ。



まず、ただでさえ女性が多いスイーツのお店に威圧的なほどの美貌の夏雪が入店すると悪目立ちしてしょうがない。


「やはり見た目の華やかさは重要。しかしカロリーなどを気にする女ならば健康志向のものでなければ…………両立する物品は無いものか…………」


顎に手をあてながら商品を眺める眼光は鋭く、とてもケーキを選んでいる客には見えない。


その上、店員さんに声をかけられれば「標的の女を射止めるためのギフトを検討している」などと、普通なら恥ずかしくて口にできないようことを真顔で言っているので、ざわざわとした空気が広がるのは致し方ないことだろう。


「こ、恋人へのプレゼントですか?


「いえ、標的です。彼女の心の壁を溶かすための逸品を求めているのです。」



標的というのが恋の標的ではなく、文字通り攻略対象のターゲットだなんて誰が思うだろう?


最近気が付いたけど、夏雪はちょっとだけ日本語が変だ。海外生活が長かった影響だろうか。

言葉そのものはアナウンサーみたいに綺麗なんだけど、カジュアルな場面になるとニュアンスがずれてる時がある。ずれてるのは言葉なのか、性格なのかはまだ分からない。



…………そのようにして、今は夏雪の両手には高級スイーツが山盛り抱えられている。

シャインマスカットが宝石のように輝いているケーキとか、桃のコンポートがシャンパンのジュレに包まれて上品に乗っているパルフェだとか。美味しそうな甘い香りが漂ってうっとりするくらい。



「ところで、高柳さんの婚約者ってどんな人?」


「俺も多くは知りません。

恐らく社内にいるようなのですが、その女が高柳さんに個人情報を漏らすなと堅く厳命しているようなのです。

つまり、とても用心深い女です。」


「うーん…………」


その言葉から私は一瞬だけ高柳さんの秘書を想像したけど、多分あの人じゃない気がする。


前に高柳さんと夏雪がパソコンを使って話をしていたときに、婚約者の人の声もほんの少しだけスピーカーから聞こえてきた。多分もっとフワフワした話し方をする人だったと思う。


「その他の特徴として、その女は極端な男嫌いだそうですよ。」