肩から唇を離した夏雪の表情が訝しげに変わる。さすがに奇行が過ぎたみたい。
「…………頭でも打ちましたか?」
「違う。『紙食ったら腹をこわすぞ』って言って」
ますます意味が分からないというように首を傾げる夏雪に、焦れったい気持ちが募る。
「私にもさっき猫に言ってたみたいにして!」
夏雪が大きな瞳を丸くしたのは一瞬のことで。
「あははっ、何だよそれ」
すぐに堪えきれないように笑い出した。ここまで笑われると恥ずかしいと思うのも無駄な気がしてくる。
「さっきは死ぬほど猫に嫉妬したのっ。
だから、私にも同じように話してくれないと嫌だ………」
「急に可愛過ぎるのは反則だろ。
本当に………俺をどうしたいんだよ、透子」
ひとりしきり笑った後には、聞いたことのない話し方で甘く囁かれた。その声にくしゃっと意識が溶ける。
口の中に長い指先が伸びてメモ用紙を取りあげられた。でもその時には舌も一緒になぞられる。わざとゆっくりと撫でる指。
「…………ん、…………って」
待って。
「優しくできない」というのがそういう意地悪を指すのなら
「困るって……」
「もう遅い」
まとめていた髪をほどかれて、その後はずっと夏雪に翻弄された。少しも乱暴じゃなかったけど時々ひどく意地悪で、自分がどんな顔をしてるかもわからない。
「さっきから見すぎ、やだ」
「ダメ。俺だけの透子をもっと見せて」
隠した腕をいとも簡単に取られて、力の入らない体は夏雪の意のままに溶けていく。
恥ずかしい気持ちと引き換えに、ずっと近付いた距離が嬉しかった。
シャワーから上がると、気になっていた室内を見渡す。バスルームは使うのが勿体ないようなラグジュアリーな空間で、洗面台にもまるで生活感がない。そんな中に髭剃りがちょこんと充電されていたりしてる。
「ヒゲ生えるように見えないけどなぁ…」
ベッドルームと生活スペースは分かれていて、ホテルだというのに自室のようにたくさんの本が並べられていた。
「贅沢なお部屋……。ずっとホテル住まいなの?」
「仕事の都合で移ることが多くて、同じ場所に長くは住まなかったから。」
ごく普通の会話でも、敬語が取れるだけで全然違う。全くドキドキする必要のないやり取りすら変にこそばゆい。
「あぁ、でもこれからはそういう訳にもいかないか。定住先を決めないとな。」
夏雪はもうすぐエヴァーグリーンの副社長の立場を公開する予定で、仕事のやり方も色々と変わるんだと思う。今は準備に追われているのか忙しそうだ。
「引っ越したら透子も一緒に住んでくれる?」
「…………頭でも打ちましたか?」
「違う。『紙食ったら腹をこわすぞ』って言って」
ますます意味が分からないというように首を傾げる夏雪に、焦れったい気持ちが募る。
「私にもさっき猫に言ってたみたいにして!」
夏雪が大きな瞳を丸くしたのは一瞬のことで。
「あははっ、何だよそれ」
すぐに堪えきれないように笑い出した。ここまで笑われると恥ずかしいと思うのも無駄な気がしてくる。
「さっきは死ぬほど猫に嫉妬したのっ。
だから、私にも同じように話してくれないと嫌だ………」
「急に可愛過ぎるのは反則だろ。
本当に………俺をどうしたいんだよ、透子」
ひとりしきり笑った後には、聞いたことのない話し方で甘く囁かれた。その声にくしゃっと意識が溶ける。
口の中に長い指先が伸びてメモ用紙を取りあげられた。でもその時には舌も一緒になぞられる。わざとゆっくりと撫でる指。
「…………ん、…………って」
待って。
「優しくできない」というのがそういう意地悪を指すのなら
「困るって……」
「もう遅い」
まとめていた髪をほどかれて、その後はずっと夏雪に翻弄された。少しも乱暴じゃなかったけど時々ひどく意地悪で、自分がどんな顔をしてるかもわからない。
「さっきから見すぎ、やだ」
「ダメ。俺だけの透子をもっと見せて」
隠した腕をいとも簡単に取られて、力の入らない体は夏雪の意のままに溶けていく。
恥ずかしい気持ちと引き換えに、ずっと近付いた距離が嬉しかった。
シャワーから上がると、気になっていた室内を見渡す。バスルームは使うのが勿体ないようなラグジュアリーな空間で、洗面台にもまるで生活感がない。そんな中に髭剃りがちょこんと充電されていたりしてる。
「ヒゲ生えるように見えないけどなぁ…」
ベッドルームと生活スペースは分かれていて、ホテルだというのに自室のようにたくさんの本が並べられていた。
「贅沢なお部屋……。ずっとホテル住まいなの?」
「仕事の都合で移ることが多くて、同じ場所に長くは住まなかったから。」
ごく普通の会話でも、敬語が取れるだけで全然違う。全くドキドキする必要のないやり取りすら変にこそばゆい。
「あぁ、でもこれからはそういう訳にもいかないか。定住先を決めないとな。」
夏雪はもうすぐエヴァーグリーンの副社長の立場を公開する予定で、仕事のやり方も色々と変わるんだと思う。今は準備に追われているのか忙しそうだ。
「引っ越したら透子も一緒に住んでくれる?」

