今夜、シンデレラを奪いに 番外編

「私はあんたみたいに高飛車な奴を憐れむほど人間ができてないの」


誤魔化すように呟いた言葉は、自分でもどうかと思うくらい素直じゃない。いつも可愛いげのないことしか言えないのは、上司だった頃の悪影響だと思う。



夏雪は、本当は私とは住む世界が違う、ちょっとシニカルな現代の王子さまだ。

財閥の一族に生まれて、視線ひとつで人を虜にする容姿で。華々しい立場に全くひけをとらないほど仕事ができるし、立ち振舞いは優雅そのもの。


だけど、白鳥の水面下のように人には見せない苦労があるのは知ってる。できるなら彼の優雅でスマートではない側面だって見ていたい。


だから、いつもと違う切実な顔でじっと見られるとドキドキして言葉が継げなくなった。


こういう夏雪も、夏雪なの?


「鴻上に恋をしているあなたの横顔を覚えています。あの男のために流す涙も。」


「…………忘れて、いいのに。」


「では協力してくれますか?

今から、俺を好きなあなたで満たして下さい」


「今日はこのまま帰しません」と熱っぽい囁きが足されて目を合わせているのは限界になり、彼の肩に顔を埋めて小さく頷く。


だって一緒に夜を過ごすのはあの時以来だから、改めて誘われるとどういうリアクションをしていのかわからないのだ。

夏雪を迎えに来た車に同乗して、ホテルの一室を自宅代わりに住んでいるという話にびっくりしつつ、恐る恐る豪華な扉の中に入る。


彼がどんなところで生活してるのか好奇心をくすぐられたけど、部屋を見るどころじゃなくなった。

靴も脱ぐ前に、体を押し付けられて唇を開かされる。熱っぽい視線と同じように熱い唇が胸に甘い熱を灯した。



「…………すみません。

今は優しくできる自信がありません。」


「……っ」



体の奥まで溶かされるような強引なキスや、ベッドまで抱えられて勝手に靴を脱がされるのが優しくないと言うなら。



謝ることなんてないのに。


夏雪になら、優しくても、ひどくされても

どっちも嬉しいのに。


うぅ………


そんなこと言えない。


「………どう……しました?」


こんな時になっても、私は自分の気持ちを全然伝えられない。だけど、ただひとつだけ譲れない事があった。


言葉で上手く言えないから、ベッドサイドに置いてあるメモ帳を一枚ちぎって丸めて、口の中に入れる。