「いまだに敬語で話されると淋しいって話」
「ぉあふっ、面目次第もございません!
え、淋しい?…………淋しいと思っていたのですか?それは改善せねばなりませ…………せねばならぬ」
「ははっ、その忍者みたいな言葉は懐かしい。
普通に敬語無しに話せる奴もいるのに、何故か俺にはそうなるんだよなぁ。」
「鴻上くんには中学の時の話し方が出るだけで……」
「鴻上さん!?」
びっくりして、二人の会話に口を挟んでしまった。
「そうか、あいつは矢野さんと同じ企画営業課だったから面識あるんだな」
こくこくと頷いて、でも驚いたのは単に知ってる人だったからじゃない。
昔好きだったから、という理由だけでもない。鴻上さんがヘビー級の失恋をした相手が、会社で再会した幼馴染みだと知っていたから。
…………そっか、理緒さんだったんだ。鴻上さんは理緒さんのことが好きだったんだ。
お酒を飲みながら目を伏せて笑う鴻上さんの姿が頭に浮かぶ。よりによって高柳さんの恋人を好きになってしまうなんて、恋心はまったく、ままならない。
どうか一日でも早く、鴻上さんが失恋から立ち直れますように。
空になったグラスに注ぎ足したお酒は苦味が増して、夜空に浮かんでは消える花火の儚さによく馴染んだ。
「お邪魔しましたー! 今日はありがとうございます」
「本日はお忙しい中お越し頂き誠にありがとうございました。
…………宜しければまたお会いしとうございます。先生と、ととと透子さんっ」
「ぜひぜひ!それに私なんかに気を使わないで大丈夫ですよ」
丁寧な理緒さんに恐縮していると、高柳さんが「今のは理緒にとってかなりカジュアルで積極的な誘い」と補足してくれる。
夏雪が「先生じゃない」と否定すると、理緒さんが「師匠!」と呼び直すのがおかしかった。二人で一体どんな会話をしてたんだろう。
帰り道は昼間の暑さが嘘のように涼しくて、ひんやりとした夜風が夏の終わりを告げていた。
「あー、楽しかったー。けっこうたくさんお酒飲んじゃったかも。花火を見ながらだとお酒が進みますなぁ。」
「…………それは良かったですね。例のごとく中年男性のような感想ですが」
「うふふ、どうせオッサンだもん。
高柳さんがね、理緒さんの話し言葉がいまだに敬語なのが淋しいって言ってて。
だから理緒さんに『キスしてほしい』とか、『ぎゅってしてほしい』とか言う時だけでも敬語を取ってみてって伝えてきたんだー。
きっと高柳さんびっくりするよぉ」
理緒さんのことだから、もしかしたら『キスでござる』とか言うかもしれないけど、それはそれで高柳さんをさらにメロメロにさせるはず。
「ぉあふっ、面目次第もございません!
え、淋しい?…………淋しいと思っていたのですか?それは改善せねばなりませ…………せねばならぬ」
「ははっ、その忍者みたいな言葉は懐かしい。
普通に敬語無しに話せる奴もいるのに、何故か俺にはそうなるんだよなぁ。」
「鴻上くんには中学の時の話し方が出るだけで……」
「鴻上さん!?」
びっくりして、二人の会話に口を挟んでしまった。
「そうか、あいつは矢野さんと同じ企画営業課だったから面識あるんだな」
こくこくと頷いて、でも驚いたのは単に知ってる人だったからじゃない。
昔好きだったから、という理由だけでもない。鴻上さんがヘビー級の失恋をした相手が、会社で再会した幼馴染みだと知っていたから。
…………そっか、理緒さんだったんだ。鴻上さんは理緒さんのことが好きだったんだ。
お酒を飲みながら目を伏せて笑う鴻上さんの姿が頭に浮かぶ。よりによって高柳さんの恋人を好きになってしまうなんて、恋心はまったく、ままならない。
どうか一日でも早く、鴻上さんが失恋から立ち直れますように。
空になったグラスに注ぎ足したお酒は苦味が増して、夜空に浮かんでは消える花火の儚さによく馴染んだ。
「お邪魔しましたー! 今日はありがとうございます」
「本日はお忙しい中お越し頂き誠にありがとうございました。
…………宜しければまたお会いしとうございます。先生と、ととと透子さんっ」
「ぜひぜひ!それに私なんかに気を使わないで大丈夫ですよ」
丁寧な理緒さんに恐縮していると、高柳さんが「今のは理緒にとってかなりカジュアルで積極的な誘い」と補足してくれる。
夏雪が「先生じゃない」と否定すると、理緒さんが「師匠!」と呼び直すのがおかしかった。二人で一体どんな会話をしてたんだろう。
帰り道は昼間の暑さが嘘のように涼しくて、ひんやりとした夜風が夏の終わりを告げていた。
「あー、楽しかったー。けっこうたくさんお酒飲んじゃったかも。花火を見ながらだとお酒が進みますなぁ。」
「…………それは良かったですね。例のごとく中年男性のような感想ですが」
「うふふ、どうせオッサンだもん。
高柳さんがね、理緒さんの話し言葉がいまだに敬語なのが淋しいって言ってて。
だから理緒さんに『キスしてほしい』とか、『ぎゅってしてほしい』とか言う時だけでも敬語を取ってみてって伝えてきたんだー。
きっと高柳さんびっくりするよぉ」
理緒さんのことだから、もしかしたら『キスでござる』とか言うかもしれないけど、それはそれで高柳さんをさらにメロメロにさせるはず。

