今夜、シンデレラを奪いに 番外編

冷静に考えれば言いたかったことの本当の意味はすぐにわかったけど。

…………妊娠のタイミングに口を出すなというごく当然の話なんだと思う。



「恋人も同席している前で、浮気の冤罪のような言いがかりは止めてください」


「えっ?あ!違う違う」


「やはり似た者夫婦と言うか、お二人とも性的な意味での誤解を生むのがお好きなんですか。厄介な性癖ですね」


「そういうんじゃないから…………」



高柳さんの慌てたり困ったりしてる表情はちょっと可愛い。


* * *




「たまやー」


浴衣に着替えた理緒さんが、大きな花火にはしゃいでいる。金魚の柄の入った浴衣は彼女によく似合ってとても可愛い。マンションの広いテラスから隅田川の花火がよく見えた。高層階だからなのか、花火が近くて大迫力だ。


テラスにはテーブルを広げて、たくさん買ってきたケーキやお酒、高柳さんが用意してくれたゴハンが並んでいる。

今日は夏雪の企みしか知らされてなかったけど、もともと高柳さんは花火大会に合わせておウチに招待してくれたそうだ。


「花火を見るならそう言ってくれれば良いのに。私も浴衣とか用意するし…」


「外で着なくていいですよ。透子が和服を着ると七五三のようになるでしょう?」


夏雪はしれっと言い放ってビールを飲んでる。花火そっちのけで猫とじゃれていた。


もうっ。コイツの女心を根こそぎすり潰すような発言はどうにかならないのかっ。グラスに残り少なくなったお酒を煽るように飲んだら、「くすっ」と高柳さんが笑ってるのが聞こえた。


「ナツくんのああいうところ、かーわいいね」


「一体、あれのドコがですか!?」


高柳さんは理緒さんの浴衣姿を「可愛い」「色っぽい」と、聞いてるこっちが恥ずかしくなるほどべた褒めしていた。あそこまでとは言わないものの、もうちょっと気を使ってくれてもいいのに。


「ははっ。あんなに分かりやすいのに気付かないのか。

それなら俺から不粋なこと言えないよ。」


「何なんですか、もう……」


テラスの片隅で呑気に猫と戯れる夏雪はやたらと楽しそうだ。「お前の名前は?」と猫に聞いたり、ボールを投げたりして遊んでる。


「先生、その子はリクです。いつもりっくんて呼んでますけど」


「リク、ですか。………そして俺をなぜ先生と呼ぶ?」


「先生にはぜひ、占ってほしいことがたくさんございまして!もしかしてオーラとかも見える方なんですか?」


「………どうしてそうなる」


理緒さんと夏雪はお互い男嫌いと女嫌いと言うけれど、不思議と波長が合うのか楽しそうに話している。




「それにしても、理緒さんは高柳さんにも丁寧な言葉で話すんですね。」


「そうだね」


何気ない話題を振ったつもりが、高柳さんが深い溜め息をついている。この話は地雷だった?