料理の仕込みに戻ったお母さんから雅美に視線を戻す。
「早く教えてよ。私たち親友でしょうが」
「……うん」
「怪我はなかった?怖かったでしょう」
「まぁ…」
「相馬先輩が来てくれて良かったね」
こくりと雅美が頷く。
次会ったら、私からも相馬先輩にお礼を言わないとな。
私の中の彼のイメージは、黒瀬先輩に張り付くただのウザい人から、王子様へと昇格した。
「雅美、惚れたりしてない?」
お母さんに聞こえないように小声で問う。
雅美の僅かな変化を見逃さないようにじっと目を凝らして。
「よく分からない」
「そっか」
珍しく素直な彼女の返事に、それ以上は深入りしなかった。
もし雅美の中に好きという感情が芽生えていて、それを自覚する瞬間が訪れるのであれば、力になりたい。応援したい。
婚約者がいる身で黒瀬先輩を追い掛ける私を、決して責めることなく背中を押してくれる雅美のように。1番の味方でありたい。