扉の前に立っていた雅美たちは一足先に階段を降りて行った。
賑やかな相馬先輩の声と、雅美の罵声が聞こえる。
道行く人の視線を集めている。
他人のフリしようかな…。
「ごめんね」
隣りを歩く黒瀬先輩の突然の謝罪に首を傾げる。
「君を困らせるつもりではなかった。だから、ごめん」
「だ、大丈夫ですよ。軽いジョークですし」
「そうだね」
でもやっぱり。
黒瀬先輩にジョークは似合わない。
「黒瀬先輩。女子から"付き合って欲しい"と告白させるなんて、卑怯ですよ!まぁ私の場合は好きだと連呼しているから今更ですけどね」
2人を追い掛けるために早足になる。
声の大きい2人を見失う心配はなさそうだ。
「君の好きはちゃんと届いているよ」
「黒瀬先輩…」
優しい瞳と目が合う。
「交際の申し込みは男から。承知したよ」
爽やかな笑顔を向けられ、その言葉の意味を考えている間に先輩は私を追い越して行ってしまった。



