もし、付き合ってくれるというのならーー正直、困る。
それは困るんだ。
婚約者がいるにも関わらず、他の男に心を奪われている情けない自分は、
黒瀬先輩の手をとりたくなってしまう。
大切な婚約者を裏切る結末だけは、絶対に駄目だと言い聞かせて日本を断つ覚悟をしたのに。
こんなところで揺らいでどうする。
怖くて黒瀬先輩の目を見れなかった。
「ーーなんて、冗談」
え?
「ごめん、からかいすぎたかな」
黒瀬先輩の似合わないジョークに拍子抜けだ。
雅美でさえ呆れているのか、なにも言わなかった。
「さあ、着いた!」
雅美の肩をグイグイと押して相馬先輩が空気を変える。
…あー、無駄にドキドキして損した。



