あなたは全て見透かしていたんだね。


この中途半端な気持ちをーー。



深い溜息をついたところで、携帯の着信が鳴る。


真っ暗な部屋で光った携帯を手に取る以外の選択肢はないんだ。



「はい」


『連絡遅くなってごめんね』


「ううん、忙しいことは分かってるから」


耳馴染みの良い柔らかな声が届く。


『元気ないみたいだね。どうした?』


電話越しでも、私の元気のなさに気付いてしまう幼馴染。

まだ二言しか話してないのにね。

物心がつく前からずっと一緒にいたから、お互いのことがなんでも分かってしまうんだ。


「好きな人に、フラれ……」


フラれた?

ちょっと違うかな。


正確には黒瀬先輩は私のことをフッてくれなかった。





『僕という婚約者がいながら、なにやってんの』





責める口調ではなく、明るく返してくれた。



『前に話してくれた、優しい先輩?』


「そう」


『大丈夫だよ、菜子には俺がいるでしょ』




涙が溢れる。


先輩の前では流せなかった涙が、止める術なく流れていく。