憧れの人の目の前でカツ丼を頬張る。
よく考えたら色気のないシチュエーションだ。

おまけに雅美はしかめっ面でちびちびとカツ丼をかじっている。


「小学校から一緒なんです」


「そうなんだ。仲良しなんだね」


「ただの腐れ縁ですよ」


カツの食べ方まで綺麗な先輩の前で大きな口をしていた自分が恥ずかしくなり視線を逸らす。


初めて昼食を一緒に食べたわけではないけれど、勝手に目の前の席を陣取っていた時にはなかった緊張感が生まれる。


私ってこんなに乙女だった?



「…あんたはこいつのどこがいいわけ?私はヘラヘラしてる男が1番嫌い。良い顔して女を捕まえて、自分のモノになったらポイッて捨てるんだよ」


「雅美!!」


乙女モードに入りつつあった私を現実に引き戻した雅美の悪態に、大声を出す。


「先輩に謝って!」


「なんで謝らなければいけないの?」


「黒瀬先輩はそんな人じゃないから!」


「じゃぁ!あんたは今、この先輩がなに考えてるのか分かるのかよ?」


きつい口調になった雅美の問いに先輩を見る。


目の前の言い争いが聞こえていないかのように穏やかな表情でお茶を飲んでいた。


なに考えてる?
ーー分からない。

雅美の言う通りいつも穏やかな対応をしてくれて、その内心でなにを思っているかなんて分からない。

黒瀬先輩は特に分かりにくい。



「…俺がなにを考えているかって?」


先輩は4人掛けのテーブル席に座る私達だけに聞こえるような小さな声で言った。


「誰にでも良い顔してるわけでないし、恋人は作る気がない。だから君の言っていることは全て偏見ーーそう思ったかな」


冷ややかな視線で先輩は雅美を見ていた。

最後は穏やかに口を閉じたけれど、内容は辛辣だった。


先輩らしくない荒い言葉に、箸を止める。