「将来の悩みって?」

「今までは日本を離れて…仁くんの元に行くために英語の勉強に力を入れてきました。今は何をしたら良いか、分からなくて」


受験生の戦いはもう始まっている。
授業中に居眠りしている雅美でさえ志望校は決まっていて、目標に向かって勉強をしている。



「本当にやりたいことはないの?」


器用に煮魚を食べる黒瀬先輩に聞かれても、答えられない。


「両親の敷いたレールから外れた今、考えがまとまらなくて」


「それなら焦らずに、ゆっくり考えればいいよ」


「こういう職業に就きたいとかは、ないんですけど…ひとつだけ、気になっていることがあって」


「どんなこと?」


その答えを聞いたら、夢が一瞬にして砕けるかもしれない。
それでも確認はしておきたかった。


箸を置いて先輩を見つめる。



「黒瀬先輩はどこの大学を目指してるんですか?」


できることなら一緒の大学に通いたい。

そしたら3年間、傍にいることができるんだ。


先輩は恋愛を第一に志望校を決めることは腑に落ちないかもしれないけれど、私は黒瀬先輩の隣りに立てるような彼女に成長したい。
だから彼が求めるレベルに追いつきたいんだ。


「俺は、東桜大学を第一志望に考えてるよ」


「東桜…」


難関大学のひとつだ。
国立までには及ばないけれど、相当レベルが高い。


「そこで経営について勉強しながら、教職についても学びたい」


ああ、やっぱり。
先輩はきちんと将来のことを考えているんだ。


「私のレベルでは行けない確率の方が高いけど、今から頑張って、私も東桜大学を目指します」


自分の意見はどこにあるの?
もっと真剣に考えるべきでは?
そんな指摘を受けることは当然だと考えていたけれど、案の定、先輩は首を振った。