離れた唇をぼんやりと追いかける。


まさか、キスされるなんて…


「気持ち良かった?」


「なっ……、」


もしかしたら通行人が見ていたかもしれないのに、彼は平然として聞いてきた。



「俺も初めてだから、上手くなかったらごめんね」


「は、初めて…」


「うん。君が初めて。手を繋ぐのも、キスするのも、女の子を愛おしいと思うことも、君が全部、初めて」


「そうなんですか?今まで彼女さんとかは?」


照れも忘れて、彼の言葉に食いつく。
だって、信じられない。


「彼女は作ったことないよ。だから鈴宮先生のことを含めて君が不安に感じることなんて、何ひとつないんだけど。やっぱり不安?」


「そりゃぁ…今もまだ夢見心地ですし。でも黒瀬先輩のことを信じてないわけではなくて。と、とにかく!先輩のことが大好きなんです」


そっと抱き着く。
周囲の目は気になったけれど、そうせずにはいられなかった。


「ありがとう」


強く先輩にすがりつくと、
腰に手を回して抱き締め返してくれた。


その胸の中はひどく安心した。