文句を言い連ねる雅美と、それに対してまた冗談を言う相馬先輩は、じゃれているようにしか見えない。
「あの2人、上手くいくでしょうか」
遠ざかる背中を見つめながら、黒瀬先輩に問う。
「最近は希人の鈴宮先生のことを話す時間が短くなったように、俺は思うよ。代わりに小林さんのことを嬉しそうに話してる」
「そっか…良かった」
鈴宮先生は大人な魅力をたくさん持っている素敵な女性だ。相馬先輩がずっと憧れている人であるけれど、先生はーー黒瀬先輩を想っている。
私は、彼女だから…聞いてもいいよね?
「黒瀬先輩と鈴宮先生の関係って…」
「先生は俺の婚約者で、製薬会社の社長のご令嬢だ。まぁ俺が家を出たことにより婚約は解消されたし、もちろん特別な感情は持ってないよ」
「先輩はそうでも、鈴宮先生は…納得していませんよね?」
婚約者って、やっぱりどこか特別だと思うのだ。例え親同士が決めたものだとしても、出逢えたことは運命に近い。
「俺のために色々と動いてくれようとしてくれた。でも断ってきたつもりだし、はっきり俺の気持ちも伝えているよ」
目を合わせて答えをくれた。
彼がそう言うのだから、それ以上のことは無かったのだろう。
大丈夫だよね…
暗い感情に支配されそうになると、不意に彼の顔が迫った。
え…、
鼻と鼻が触れた至近距離で、黒瀬先輩は優しく笑った。
「んっ…、」
そして、
ーー唇と唇が触れた。
甘い口づけだった。