「菜子!」
え?
名前を呼ぶ声に振り返ると、息を切らした仁くんが駆け寄ってきた。額に汗も滲んでいる。
「良かった、間に合って」
「仁くん!体調は大丈夫なの?」
スーツ姿の仁くんは、もしかしてもう仕事に行こうとしてるのだろうか。
「菜子がずっと看病してくれたから、平気。菜子こそ慣れない場所で疲れただろ?ゆっくり休んでね」
婚約していた頃と何も変わらない態度にひどく安心した。
「仁、無理するもんじゃないぞ」
「大丈夫ですよ」
父の忠告にも笑顔でかわす。
本当に大丈夫なのかな…。
「菜子、これからも幼馴染として僕を支えてね」
「もちろんだよ」
「僕には春嶋さんと、菜子がいる。そして…窮地に陥った時、助けてくれるであろう弟もいる。だから全力で頑張れるよ」
前向きな仁くんの言葉に、涙腺が緩む。
幼馴染であろうと婚約者であろうと、私が仁くんを想う気持ちはなにひとつ変わらない。
全力で前に進む仁くんを、全力で応援するだけだ。
「私も頑張る。もっと、英語も」
「そうだね。いつかうちの会社で働くのはどう?」
「足手まといだ」
すかさず父が口を挟み、3人で笑い合う。
時間になるまで私たちはお喋りを続けた。