落ち着いた音楽が流れる店内で、金髪のウエイターに話し掛けられ、席に案内される。


英語の参考書を思い浮かべて必死に適切な会話を探すが、パニクった頭ではなにひとつ浮かばない。


どうしよう!


メニューを差し出してくれたため、魚料理らしきものを指差して注文する。




そして、


「君、こんなところで何してるの?」


背後からの聞き慣れた声に、心の底から安堵した。

本当に良かった…。


「黒瀬先輩…」



ウエイター姿の彼を見て、止まったはずの雫が頬を伝う。


「こ、ここまで…仁くんに送ってもらって…それで、」



考える暇もないくらいあっという間にここに到着してしまい、黒瀬先輩に伝えたいことすらまとまっていない。



「ここのパスタはとても美味しいから、食べて行くと良いよ」


金髪のウエイターに何かを伝えると黒瀬先輩は向かい側の椅子を引いた。



「着替えてくるから一緒に食べよう」


落ち着いた彼の言動によって、焦っていた心が静まる。

ああ、日本を離れても先輩は先輩なんだ。
そんな当たり前のことを考える余裕もできた。