声を上げて泣く私を優しく慰めてくれたけれど、その広い胸に迎え入れてくれることはなかった。

そしてハンカチとともに紙を渡された。


「良斗さ、僕のことがまだ心配みたいで、帰国してないんだって。しかもこっちでの滞在費を黒瀬の叔父さんから借りることが嫌で、自分でバイト先まで見つけて働いてるんだって」


「働いている?」


「ここのイタリアンのお店で働いてるんだ。行ってみたら?ほら、まだ開店中だしさ」


渡されたお店の名刺に視線を落とす。
残念ながら英語で何を書いているかは読めなかった。



大通りでタクシーを拾うと仁くんは目的地のイタリアンレストランまで送ってくれた。

誰も行くなんて一言も言ってないんだけど。


それにこんな泣き腫らした顔で行ったら、お店にも迷惑かけちゃうよ。


レストランの前で尻込みする私の背中を叩き、仁くんは扉を開けた。



「良斗が嫌になったら僕のところに戻ってきて良いから。だから今夜は良斗に会いに行きな」



そして無理矢理に私を店の中に入れると、手を振ってくれた。



扉が閉まる瞬間、目が合った彼もまた泣きそうな顔をしていた。