初恋の君と、最後の恋を。


仁くんの話にある弟は、

両親から寵愛を受けて、それは差別ともとれる愛され方だった。

頭が良く優秀で両親は弟を後継者に育てようとしていた矢先、亡くなった。


両親に愛されなかった仁くんの気持ちや葛藤は私が1番よく知っている。




「黒瀬先輩も苦しんでいたのですね」


「…俺は逃げ出した人間だからね。兄に会社を押し付けて、普通の高校生として生きているだけだ」


「黒瀬先輩…」


「他に聞きたいことがあるのなら、日本に帰ってからにしよう。仁が待ってるでしょう」


「会って行かないんですか」


「今度にするよ」


2人はどこですれ違ってしまったのだろう。
周囲の人間がそうさせたのかな。

2人が同じ方向を見ることができれば、それ以上に力強いことはないのに。



「黒瀬先輩は仁くんのことが嫌いですか?」


「…まさか。あいつはどうか知らないけどね」



寂しそうに笑う黒瀬先輩。






私の初恋の人は、
私の婚約者を苦しめ続けた張本人だ。

黒瀬先輩にその気がなくても、仁くんが苦しんだ事実は変わらない。


そのことを誰よりも理解しているからこそ、黒瀬先輩は病室には行かなかった。