病院を飛び出し、道路に出て黒瀬先輩の姿を探そうとした。
しかし信号を渡った先のコーヒーショップのベンチに彼は座っていた。
紙カップを持った黒瀬先輩はすぐに私を見つけ、片手を挙げてくれる。
またあなたにはお見通しだなんだね。
分かりやすい場所に居てくれて、私を待っていてくれた。
青信号になり、駆け足で先輩の元へ向かう。
慌てて駆けつけたのか、その髪は珍しいことに乱れていて、Tシャツとジーンズというラフな格好だった。
息を切らした私に隣りに座るように促し、笑ってくれた。
「仁のことならもう心配いらないって、担当医師が言ってたよ」
こくりと頷く。
「……いつから私の婚約者が、仁くんだって知っていたの?」
「体育祭でだよ」
あの日、仁くんは婚約者だと自ら名乗った。
そして黒瀬先輩に対して"はじめまして"とも言った。あのはじめましては、2人の関係を表していたんだ。
「仁とは母親が違うけど、兄弟だよ。けれど俺は虹原家から逃げた人間で、今は親戚の黒瀬を名乗っている」
「私、仁くんとは小さい頃からずっと一緒に遊んでたけど、黒瀬先輩には会ったことないですよね?」
自宅にもお邪魔していたけれど、弟さんの姿は見たことがなかった。
「昔から仁は俺がいると笑わないんだ。だから俺は彼とは出掛けなかったし、多くの時間を叔父の職場で過ごしてたよ。家は息苦しくて、逃げてたのかな」
黒瀬先輩より仁くんは5歳年上だろう。
5歳年上のお兄さんに、そこまで気を遣うもの?
信じ難い話ではあるけれど、小さい頃から周りの空気に聡く、敏感に生きてきたのだ。



