好きと伝えて、ありがとうと返してもらうことすら当たり前に思ってしまっていた。
それすら特別なことだったんだね。
「先輩は夏休みの予定、もう決めました?」
「アルバイトかな。彼らも夏休みだしね」
「生徒さんも夏休みですもんね、忙しいですよね。私もカフェで夏休みだけ働くことになって。良かったら飲みに来てください。慣れてなくてダメダメなところを見せちゃうかもしれませんけど」
「そうなんだ。頑張ってね」
感情のままにマグカップを倒した仁くんの顔を思い浮かべると胸が痛む。
物に八つ当たりする彼を見たことはないし、いつも紳士的だった。
それだけ私の決断は彼を傷付けたということだ。
「黒瀬先輩、色々と迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑なんてなにもかけられてないよ」
「私の気持ちは重くないですか?もちろん受け入れられるなんて思ってないですよ」
横に並ぶ先輩を見上げる。
朝から変わらない清々しい横顔。
「重くないけどね。俺、未来予知ができるんだ」
「未来予知?」
先輩の口から非科学的な発言が飛び出す。
「そう、未来予知」
先輩は笑っていた。