「冗談が酷すぎますよ、黒瀬先輩…」


声が震える。


「冗談?なにが?」


「だから、黒瀬先輩はそんな酷いことを言う人じゃないでしょう?私の告白が愉快だとか、そんなーー」


「君は俺のなにを知ってるの?」


痛み止めが効いているはずなのに、立っていることが辛かった。足まで震え出す。


「君が見てきた黒瀬良斗は、俺が演じた好青年だよ。年上の余裕があって、穏やかで、頼りがいがあって。とにかく心優しい先輩。違う?」


「…違わないですけど」


「欠点なんてひとつもない優良物件だと、思ってた?それなら早く理解した方がいい。君が見てきた黒瀬良斗はもういない。俺が感情を殺して作り出した虚像に心奪われていただけさ」


分からない。

先輩がなにを言っているのか、さっぱり分からない。


無意識に唇を噛み締めていたせいで、口の中が血の味になった。


「ああ、そうだ。君は俺に振って欲しいんだったね。酷い言葉がお望みだっけ?面白いから先延ばしにしてたけど、今日はちゃんと言ってあげる。心の準備はいい?」