スターターピストルの音が響く。
そして少し間を置いてから
黒瀬先輩はタオルから顔を上げた。
その目は私を見ていなかった。
早くなにかを言って欲しい。
沈黙がいたたまれなくてヘラヘラと笑ってみせる。
「えへへ、驚きました?」
それでも返事をしてくれず、私も目を合わせることが怖くなり、地面を見つめる。
2回目のスターターピストルの音の後、黒瀬先輩は口を開いた。
僅かな間なのに、私にはとても長く感じた。
「驚いた、とても」
いつもの穏やかな口調に安心して、顔を上げる。
けれど、
彼の表情は氷のように冷たく、その目が、
私を見る目が怖かった。
「君がここまで馬鹿だなんて、思わなかったよ」
彼の答えもまた、信じられないほどに冷たかった。