「黒瀬先輩!雅美が倒れて!」
咄嗟に先輩の腕を両手で掴む。
「落ち着いて。大丈夫だよ」
黒瀬先輩はいつものように穏やかに笑い掛けてくれた。
パニックになっていた頭に、周囲の雑音が聞こえてくる。
「とにかく先生にーー」
不自然に言葉を区切った黒瀬先輩の視線の先に、仁くんが居た。
黒瀬先輩と仁くんをできれば会わせたくなかった…。
「えっとこちら、虹原仁さん」
敢えて"婚約者"という言葉を省略したけれど…
「はじめまして。彼女の婚約者の虹原です」
「…はじめまして」
ああ。仁くん言っちゃった…。
ほんの僅かだったけれど、黒瀬先輩の顔が強張った気がした。



