雲が太陽を隠す。
「それでも君が婚約者と歩む決意をするのであれば、辛辣な別れの言葉でも用意しておくよ」
「黒瀬先輩と歩む道を選ぶのであれば?」
小さい子供連れのお母さんが公園に入ってきたため、私たちは素早く立ち上がった。
先輩の制服のパンツは土で汚れている。
「君のご両親に受け入れていただける演説を用意しておく」
提示された2つの道。
前者は仁くんのために生きる道であり、
後者は自分のためだけに生きる道だ。
「黒瀬先輩の気持ちはどこにあるんですか?」
「俺の気持ちは、君が答えを出してから話すよ」
「ずるいです」
スカートに付着した土をはらいながら、口を尖らせる。
「ずるくないよ。俺の気持ちに左右されず、まずは君なりの答えを出して欲しい。君の気持ちが望む場所へ進んで欲しい」
なによ。
それっぽいこと言って。
上手く丸め込まれてやるもんか。
「…私が黒瀬先輩と歩む道を選んだとして、黒瀬先輩が私を嫌いであれば意味がないです」
「それは俺が君に興味ないと言い切れば、仕方ないから婚約者の元へ行くという言葉に聞こえるよ。婚約者を君の逃げ道に使っているように思える」
淡々とした忠告に、頭を殴られた気分になった。
そうだよね。
黒瀬先輩と付き合えないから、仁くんの元へ逃げたように受け取られてもおかしくない。
誰よりも仁くんに失礼だ。



