ふうっと、息を吐いた雅美は私のソーセージを許可もなく口に入れた。


「黒瀬良斗のどこがそんなに良いのか、よく分からん」


「初めて話した日のことは話したでしょ?あの時、嫌がらせを受けても笑って受け流せるその強さが眩しくて、それから彼の姿を目で追って、たまにすれ違ったら優しく笑ってくれて。頭の中が黒瀬先輩でいっぱいになってた」


ハンバーグをナイフで切ると肉汁が溢れ、それを雅美の口に運んだ。


「美味しい?」


「美味い…仁か黒瀬先輩か、どちらかを選ぶかは決まってるんでしょ」


「それは仁くんを」


「それなら悩むことはないはずだけど」


冷たい正論にうなだれる。


「何を考えているか分からない黒瀬良斗よりも、あんたのことを1番に想っている仁が良いと思う。黒瀬良斗の笑顔は嘘くさいしな。けど、あんたとジェラートを食べる黒瀬良斗は笑ってた。少なくともあの笑顔はホンモノだった」


普段、口数の少ない雅美が紡ぐ言葉は、ストンと私の心に落ちる。


「最近から仁を選ぶとあんたは決め付けてるけど。もっと素直になっても良いんじゃない。仁の婚約者になることは、あんたの義務じゃないよ」


2本目のソーセージに手を伸ばした雅美は珍しく優しく言ってくれた。


「まだ春まで時間はあるから。ゆっくり考えなね。で、いらないなら私が食べるけど?」


「ちょっと、ソーセージ!私のだよ!」



春まで。

そうだね。まだ時間はある。

焦らずにこの気持ちを整理していこう。

例え整理がつかなくとも、足掻いた時間は無駄にならないはずだ。