部屋に戻り英語のテキストを見せてもらう。

数々の付箋と沢山の書き込みは、仁くんの努力の証だった。


「すごく分かりやすい!」


余白にまとめられた要点が、スッと頭に入ってくる。


「じゃぁ、あげるよ」


「え?」


「僕にはもう必要ないからね」


「でも…」


「それなら貸してあげる」


「いいの?ありがとう!」


大切にしているものをなんの躊躇いもなく譲ってくれる。

小さい頃から仁くんは私を優先してくれていた。彼に多くの我慢を強いてきたのかもしれない。


そんな彼が、私を欲しいと言ってくれるのだ。


いま思えば、
彼との婚約者は、仁くんの初めてのワガママだった。その唯一の彼のお願いを応えずして、どうするんだ。


英語のテキストに視線を落とす。


私も頑張らないと!


「仁くん、ここ教えて!」


腕まくりをしてペンを握る。
私にできることをやらないとね。