あの?……

不意に声がして驚いて後ろを振り向くと鈴加が心配そうな顔で俺を見上げていた。

「どうした?」
「どうした?って…高嶺さんの方こそどうしたんですか?急に黙って難しい顔して考えこんで…大丈夫ですか?」

なんだよこいつ……
部屋に入るなり無理矢理抱き寄せたり、意地悪なことを言ったりしたのに?
俺を心配してくれてるのか?
鈴加の能天気さと言うか無自覚さにちょっと呆れる。
だけど、そう言うのも可愛い。
でもそう思ってることなんか悟られたら困る……だからついつい俺の口調は悪くなる。

「別に!ちょっと明日の仕事の事を考えてただけだよ!」
「そうですか…、明日もお仕事なんですね。」
「あぁ。うちの病院は土曜日も外来や手術があるから、それに忙しいからなかなか丸々1日休めないし、呼び出しとかもあるし、不規則な勤務体制だからあんまり家にも帰れないんだ。これからはそう言うのも慣れてくれよな?医者の嫁になるんだからさぁ?」

俺はわざと冷たい感じで、更に嫁発言を強調してみる。
鈴加がどんな反応をするのか?興味津々で様子を伺う。

「そうですか……。お医者さまって大変ですよね。知ってた筈なんですが……忘れてました。」

そう言って鈴加は寂しそうな顔でうつむいた。

知ってる?どう言う意味だろう?
俺は気になって聞いてみる事にした。
鈴加が先に始めた質問タイムに便乗すれば色々聞けるはずだ。

「なあ?ちょっと座れよ!さっきの質問タイムの第2ラウンドだ!次は俺にも質問させろよ!」

俺にそう言われて鈴加は素直にソファーの端に座った。
俺はわざとピッタリ貼り付くような距離で隣に腰掛けた。
途端に鈴加が緊張して身を固くするのがわかる。
それが可愛くてつい頬が緩みそうになるのを手で隠しながら話を始めた。