早朝の決意がわずか数時間後に揺らごうとしている……これはちょっとしたピンチだ。

目の前には爽やかな笑顔なのに目が全く笑っているようには見えないスーツの男性と、怯えきって泣くこともできない後輩3人組が立っている。

スーツの男性はわが社の副社長。
後輩3人組は私を陥れたあの三人。

勤務開始早々に副社長の秘書から呼び出しを受けて3人組と向かった副社長室。
最初のうちは副社長に会える!と嬉しそうだった三人が、今は顔面蒼白で副社長から退職を迫られているのだ……

なんでこうなったのか?
説明しよう。

先週の献血騒動が発端だった。
帰宅した後に病院に連れていかれて寝込んで2日病欠した私のことを心配した上司が、副社長とのランチミーティングで嫌がらせを受けて休んでいると話してしまったらしい。
それを聞いた副社長が、密かに秘書たちに調べさせたところ3人組がイケメンな秘書にペラペラと全てを自慢げに語ってしまったのだ……バカだろ?思わずそう言いそうになった。

「君たちがしたことは単なる嫌がらせの域を越えている!医者をしている知り合いから参考に話を聞いたが、重度の貧血を起こせば、ただではすまなかったかもしれないんだぞ!子供のイタズラとは訳が違う!」

副社長室に入った途端に、笑顔のままで辛辣な言葉を次々に吐き出す副社長に3人組はひとことも発言できない。
もちろん私もびっくりしていた。

「それで?君は大丈夫なのか?体調がすぐれないなら何日でも休んでくれていいんだぞ?」

不意にこちらに視線を向けた副社長に、今度は私が緊張する。

「いえ、もう大丈夫です。主治医からちゃんと許可をもらいましたし、薬もちゃんと飲んでます。」

とは言ったが、その主治医は今朝もかなり私の出勤を渋っていた。

「本当に?それなら主治医の先生から診断書を貰わないと。」
「そうでした、病欠の申請書に必要なんですよね?」
そう答えた私に秘書さんが
「いえ、2日でしたら病院の領収書のコピーで十分です。診断書が必要なのはこの一件を法的に訴えるためです。」
と静かに答えた。

え?訴える?誰が誰に?なんのために?

思わず呟いた。

「もちろんわが社がこの3人組を、大事な社員を死の危機に陥れたことを反省してもらうためにだ!」
そう言い放った副社長の顔からは笑顔は消えていた。
これは本気だ……。