「桜にいじめられたら、俺に言って。俺から岳に抗議するよ」

「はあ」

どうして、桜さんには直接抗議しないんだろう、もしかしたら、先輩は、桜さんが怖いとか?

「桜さんは、凄く優しいですよ。それに強くて綺麗で。私もいつかあんな風に凛とした女性になりたいです」

私はギュッと手を握り決意表明する。

「ちょっ、ちょっと、蒼井さん、それは方向性が、間違ってるよ。どうして桜を目標にするの?蒼井さんが、桜みたいになるのは、反対だよ。蒼井さんは、優しくて可愛いくて、俺は今のままで十分だと思うよ」

先輩が、慌てだしたので少しおかしくて笑いそうになる。

あ、ほんとに桜さんが怖いんだな、先輩は。

「蒼井さん、ひどいな、なに笑ってるんだよ」

「さあ、笑ってませんよ」

私はこっそり笑いをこらえるけれど、プッてふきだしてしまう。

先輩が、またそっと、私を抱き寄せる。

あたりはすっかり暗くなっていた。

月明かりの下、額をコツンと合わせて、見つめあった私達はクスクス笑い合った。