「蒼井さん、足をもっとこっちにして、あと腕はこうして」

彼女は、俺の指示に一切反応しないので、俺が彼女の腕をとって自分の腰にまわさせる。彼女の腰にも片腕をまわして慎重に降り始める。

お互い汗だくでベトベトだったから、滑って彼女を離して落としてしまわないないように気をつけないといけない。

「先輩くすぐったいです」

「大丈夫か?あと少しだからな」

こんな降り方をして、不安だったが地上から2メートルほどまで降りたところでようやくホッとして一瞬気が緩んでしまった。このままいけば無事に降りられる。

「あ、まだ、片付けが終わってないから」

突然、彼女が腕を伸ばして棚に手をかけようとしたので、バランスを崩してしまう。

「ちょっ、待って、離さないで」

彼女の両手が俺から離れて体ごとグラリと揺れ、腰にまわしていた俺の手が滑ってしまう。

こちらに腕を伸ばしながら彼女の体が、支えを失い落ちていく。

ダメだっ、と思った瞬間体が勝手に動いて俺は飛んでいた。

脚立がグラリと大きく揺れて倒れてくるのがわかった。