ギュッと目を閉じて、彼にたとえ抱きしめられても受け入れようとした。

あの人の顔が一瞬浮かんで、苦しかったけれど必死に打ち消した。

もう、こんな私なんて、先輩から嫌われても仕方がないんだ。

しばらくの間、目をつぶっていたけど、何もされなかった。

「泣くなよ、バカ」

そう言った時田くんは、私に触れようとはしなかった。

「蒼井、じゃあな」

目を開けた私は、いつもの彼の明るい笑顔を見ることが出来た。

いつのまにか、彼は泣き止んでいて、いつもの時田くんに戻っていた。

軽く私のおデコにデコピンして、時田くんは走って部室を出て行ってしまった。

そうだ、時田くんは私の嫌がることは決してしない。するわけがない。

優しい人だから、そんな時田くんだから、彼の深い気持ちが悲しくて切なくてたまらなかった。

ごめんね、時田くん。

心の中で、何度も何度も彼に謝っていた。