「あ、は、はい。大谷さん、もちろんです」

彼女は、目を丸くしながらコクコク頷く。ちょっと岳の迫力に押されている感じはする。

おお、岳、俺のフォローをしてくれているのか?なんていいやつ。さすが、俺の親友だ。

「つばさを宜しく」

言って、岳は蒼井さんの小さな手を握る。普段仏頂面のくせに、この時の岳は優しく彼女に笑いかけていた。

おい?岳なにしてんんだよ?

岳に見つめられた蒼井さんが、ちょっと顔を赤らめているので、慌てて割って入る。

「岳もういいから、あっちいけ。蒼井さん一緒に帰ろっか。あ、今日部活休みだしデートしよ。デート」

一瞬、岳にオトされかけている彼女を急いで呼びもどす。

「は、はい。つばさ先輩」

すぐに、彼女は俺の誘いに応じてくれた。

はー、危なかった。岳って本気だすとなんでもできる奴だから気をつけないと。

こいつ、こんな怖い顔のくせに意外にモテるんだよな。けど、誰とも付き合わない。

硬派で、一途なイメージだったけど、蒼井さんに対しては妙に優しいし馴れ馴れしいんだよな。

それもこれも、彼女が魅力的だからなのか、それともただ単に俺が嫉妬深いだけなのか。

いや、ともかく気をつけよう。岳と女をとりあうなんてことはもう、勘弁してほしい。

そんなのは、桜1人でもう、こりごりだからな。

振り返ると、教室の窓際の席に座る桜は、こちらを見て少し寂しそうな表情をしているように見えて俺はギクリとする。

その瞳は岳を見ているのか?それとも俺を?

なんだろ、どうしたらいいのかわからないし、変な気分だ。

やめろよ、桜。

そんな目で見るのは、もうやめろ。