尿意と尻の痛みに耐えながら


エンディングロールが終わる


のを待つ間に、つい癖で


携帯のメールをチェックして


しまった。


映画の余韻に浸った状態から


瞬時に現実に引き戻された。


愚かな行為を悔いながらも、


暗闇でお冠の送信者に一行


返信メールをして、携帯を


閉じると場内が明るくなった。


前の座席に片足を掛けて


映画の内容を反芻しようと


試みたが、余韻が戻ってくる


はずも無く、清掃スタッフに


急かされるように席を立つ。


見るとも無く後方の座席に


目を遣る、


彼女だ、


ポップコーンをゆっくり口に


運びながらこちらを見て


気のせいか、微笑んでいる。


完璧なポーカーフエィスで


視線を外して、通路に出た。


階段を下り、出口への折り


返しで吸い寄せられる様に


もう一度、彼女を目で追った。


足早に通路を下りてくる。


目が合った瞬間、愚かにも、


相好を崩してしまった。


このホールにはもう、私と


彼女と清掃スタッフしか


居ないのだ、図々しくも


その笑顔の向け先が私だ


と思っても仕方ないだろう。


彼女の微笑みの理由が、


よく出来ていた映画を観た


高揚感から来たものかも


しれなかったが、抵抗する


ことはできなかった。