「それはちょっと、困るんですわ」


「せやから、今は会えません」


「俺、付箋もらっただけなんで」


『付箋』というキーワードで、驚かそうと伸ばした手をひっこめた。


昴、誰か女の子から、あの付箋もらったんだ。


電話が終わるまで、離れたところから昴を見ていた。


ちょうどそこへ、佐久間さんが通りかかった。


「あれ杉森、帰ったんじゃなかったの?」


「お疲れさまです、ちょっと待ち合わせで」


「そうだ、言わなきゃと思ってたんだけどさ、浦野とはただの同期なんだよね?」


「はい、そうですけど」


嫌な予感しかしない。


「私の後輩が、浦野に一目惚れしたんだって。


だから、彼女の先輩から浦野にそれとなく伝えてもらうことにしたから」


今まさに、伝えてると思いますけども。


「そうですか」


「杉森には一応言わなきゃと思ってさ。


じゃ、お疲れ」


「お疲れさまでした」


「メグ?」


昴の声に振り向くと、いつのまにか電話は終わっていたみたいだった。


「あっ、ごめん」


「なんで謝るんや?」


「え、いや、その・・・待たせちゃったかと思って」


「まあええわ、ほな行こか」


中華ならここ、と決めているお店があるらしく、昴は迷わず歩いていく。


いつものように飲んで食べて話しているだけなのに、昴との距離を感じてしまう。


「そうや、今週末引っ越すんやて?」


「詩織から聞いたの?」


「ご名答、さすがやな」