「もうちょっと高くていいけど?」


「やっぱ、今日はやめとくわ。


明日のプレゼンうまくいったら、成功報酬としておごってや」


「わかった、じゃあ明日がんばる」


「今日は早く寝るんやで、明日ひどい顔にならんようにな」


「まだ若いから平気だし!」


「ほな帰ろか、送ったるわ」


外は雨が降っていて、私の置き傘にふたりで入った。


明日のプレゼンよりも、隣の昴の体温で緊張した。


昴のYシャツの生地の感触。


私の傘の柄を握る、昴の手。


昴のすべてが、私の体内に積もってゆく。


そして、積もり重なったものは、行き場をなくして漂い続ける。



昴のおかげで、プレゼンはうまくできた。


部長からは、


「まあ、初めてにしてはいい出来だな」


と、一応ほめられた。


会議室を出てフロアに戻ると、マウスに付箋が貼ってあった。


『プレゼンどやった?


俺、中華がええわ』


昴に似合わない、花の形の付箋。


スマホを取り出し、昴にメッセージを送った。


『中華ごちそうするよ、18時にエントランスで待ってるから』


午後の仕事も順調にはかどり、18時少し前にエントランスへ着くと、昴は誰かと電話していた。


そっと後ろから近づき、驚かそうと思った。