「なんだよそれ、縁起でもないこと言わないでくれよ」


「あら、だってもし裕和が恵さんと別れたら、この前の縁談を進められるじゃないの」


「・・・縁談、ですか?」


「母さん、なんで今そんなこと言うんだよ、関係ないだろ?


その話は断ったじゃん」


「裕和には保険があるってことよ。


恵さん、お気になさらないでね。


裕和と結婚したくなくなったら、いつでもやめてくださって結構ですから」


「もう、母さん!」


「私たちはもちろん、裕和の選択を尊重するわよ。


恵さんを選ぶのなら、それでいいの。


ねえ、あなた?」


「そうだな、恵さんに問題はないわけだし」


「では、そういうことでいいかしら。


私たちはそろそろ失礼するわね、論文の締切が近いものですから」


「お時間いただきまして、ありがとうございました」


裕和のご両親は、リビングを出ていった。


「ごめん恵、気分悪くさせて」


「ううん平気、こっちこそちゃんと答えられなくてごめん」


「まったく、うちの両親は無神経で困るよ」


肝心なことは聞けなかった。


裕和のお母さんが言ってた、「縁談」のことだ。


私は裕和にふさわしくないってこと?


裕和の実家を出て駅まで歩きながら、裕和は一生懸命弁解していた。


だけど、その言葉は私の体を素通りしていった。