「そこは嘘でも、さみしいって言えよ」


「ごめん、でも裕和だってさみしくはないでしょ?」


「俺は、恵がいなくてさみしかった。


だから、異動願いを出した。


早ければ秋には、東京へ行くから」


「えっ?」


正直、なんで?って思ってしまった。


裕和は入社以来ほとんど関西地方にいて、独身だし東京勤務はないのかと思いこんでいたから。


「えっ、ってなんだよ。


そこは、喜ぶとこじゃねーの?」


「・・・あっ、うん、うれしい」


「ま、いいか。


とにかく、そういうことだから。」


「そっか、長い一人暮らしもおしまいだね」


「しばらくは実家にいるけどな」


「しばらく?


あー、もういい年だし、落ち着いたら部屋探して一人暮らしするってことか」


「違う」


ちがう?


どういう意味?



「恵とふたりで暮らしたいんだ。


恵、東京本社へ戻ったら、結婚してほしい」


裕和はバッグから、小さな箱を出した。


これって、もしかして・・・


パカッと開いた箱には、指輪が光っていた。


裕和は私の右手を握ると、薬指にそっとはめてくれた。


「一生、大切にする」


重なった唇は、久しぶりの感触だった。