東京の朝は、人混みとの戦いだ。


わかってはいたけど、ここまでひどいとは。


バッグはちぎれそうになるし、セットした髪は乱れるし。


まあ、今は4月だし、私も含めて、新しい環境に慣れてない人も多いんだろうな。


駅のトイレで髪をなおし、鏡をのぞいた。


隣でメイクを直してるのは、女子高生だった。


やっぱ、10代は肌のハリが違うな。


5月で30歳になる私、杉森恵(すぎもりめぐみ)は、鏡に向かって口角をあげてみた。


だいじょうぶ、やっと東京本社に戻ってこれたんだから。


私は、厳しい就活をなんとか勝ち抜き、大手食品メーカーに就職した。


新入社員は入社式前に研修があり、そこで同期と対面する。


数十人いた同期は、研修が終わると各地にある製造工場へ配置され、数年現場を経験する。


私が最初に配属されたのは、新潟工場だった。