とある料亭の一部屋。純花の意識がどこにあろうが、お構いなしに粛々と食事会は進行する。

「純花、こちらが東条君だ」

ひらり。父の表に返した手の先には、純花が面を見るなり彼女の意識をぶっ飛ばした男。純花は意識をはるかかなたに置きながらも、無駄なく美しい一礼を披露した。常盤純花、さすが、常盤の娘である。その右隣で、純花の父は拳を握って彼がいかに常盤の家の婿として優れた男か力説しはじめる。左隣では母がうんうんとしきりに頷いていた。やや興奮気味な両親の様子を、純花は他人事のように眺める。そうしているうちに22年前まで吹っ飛ばした意識が、イマココ現在へ戻ってきた。