手だけでよかった。
手が握れればよかった。
だけど
あんな素敵な人に必要とされて、誰が抗うことができるだろう。

私はまともだと思っていたけれど、
恋に狂った馬鹿な女になってしまった。
由乃ちゃんも応援してくれて、付いてきてくれるということになって、これで安泰だとどこかで思っていた。
夫の気持ちを置き去りにして。

夫は由乃の真剣な眼差しと毅然とした態度に、たじろいでいた。
私を家政婦と思っていたのはその態度で一目瞭然だった。
嘘でさえ、言えない。

「‥だけど由乃、ありえないよ‥お、俺より、血の繋がっていない
ぎ、義理母を選ぶのか?⁈
そんでもって、その男と一緒にいたいなんて。俺は認めない!絶対だめだ。血の全くつながっていない他人にお前を渡すなんて考えられない!!!」

「パパお願い。高村先生の元へ、琴葉さんを行かせてあげて‥。私は、残るから‥」

「ゆの、ちゃん‥」

膝をついた私に
優しく悲しく微笑んだ彼女の頰に、
涙が一筋流れた。