「確かに、情けないわね。どうせ奥さんも
娘と自分の世話をしてくれそうな人、探したんでしょ。
そりゃ逃げられるわ」

「君も相変わらずだな‥傷口に君の声がよく染みるよ
もちろん愛していたよ。慈悲深い人だった」

「貴方の手術痕なんて大したことないわよ。
でも、そんななんもできない貴方が入院したこの時期なんて、尚更行くのはためらうもんじゃない?慈悲深い女性ならばよ」

「いや、確かにせめて退院してから話あおうと妻は言ってた。だけど、もう、行ってくれと頼んだんだ。
娘を守ってくれる人が、一人でも多いほうがいい、そう考えれるようになった」

「ステキな考えね。貴方にしては珍しく。貴方自分のことしか考えない人ですもん」

女医は、カカカと美しい笑顔で笑った。

「家族の形なんて、人それぞれよ。
フランスで暮らす三人を家族と思うも、思わないも貴方次第よ。娘の望む道を応援できるのは立派な父親だわ」

「ああ。そうだね。離れても、別れても家族と思えるのは、君の弟の不思議な性格のせいかもしれない。君の弟、ぶっ飛んでるもんな」

そうね、と、彼女は微笑んだ。

「貴方、何もかも取られた、って言うけど、
貴方の娘と奥さんは、自分で選んで、決めたのよ。貴方も自分で、これからの道を考えなきゃね」

「まだ、何も考えたくないけど‥今回で、自分の悪いところはよくわかったよ。
次、娘に会える時までに治さなきゃね‥」

「そうね。
なんなら私がサポートしてあげるわよ。
ただし、奥さんみたいに優しくないわよ。
ビシビシ鍛えてあげるわ」


「‥‥考えときます‥」


しばらく、黙って、晴天の空を病室から
見上げた。