「梨紗ー今日一緒に遊ぼー」
「うん、いいよー」
放課後、小学校からの親友である希華に誘われ近くのファミレスに行くことになった。集合時間を決めて私はひとり急いで帰路につく。
「あ、佑久に連絡してなかった」
横断歩道の赤信号で足を止められている時にふと思い出しポケットからスマホを取り出す。連絡帳の1番上に『佑久』という文字があった。
『梨紗おせー。』
『ごめん、先に帰るって言い忘れてた!( ´>ω<)人』
急いで返信すると佑久からすぐに返事が来た。
『はぁーーー。せっかく待ってたのに(´・ω・`)』
『ごめんて。友達と遊ぶ約束しちゃってさσ(´ω`*)』
『あーそっか。りょーかい』
短い会話を終えると丁度信号が青に変わり歩き出す。佑久とはいつも一緒に帰っているけどたまにどちらかが先に帰ることや居残りになることがあってその度に連絡し合っている。私は毎回忘れてて怒られるんだけど。こういう時だけ佑久の文末に可愛らしい顔文字がついていて可愛いとこあるよな、て思わせられたりする。笑
信号を渡ってしまえば家はすぐそこにあって佑久のことを考えている間にもう家に着いていた。
「ただいまー」
家に入って大声で言うけどいつも通り返事はなかった。うちは私が生まれる少し前に親が離婚していて母さんがいつも朝から晩まで働いている。だから小学生の時から家に帰ってきても家の中には誰ひとりいないのだ。私も早く高校生になってバイトして母さんを支えたい、なんて思ってたりする。まあ学力的に高校行けるのか、てところからだけど。
てってれーんてってっててってててーん((謎笑笑
部屋に入って一段落していると携帯の着信音がなった。バッと壁にかけてある時計を見れば集合時間の五分前。やば、と思い携帯を確認すれば案の定希華からの電話だった。
『も、もしもし』
『あ、梨沙?今どこ??』
『あー、うーん』
答えを濁していると画面の向こうからため息が聞こえた。
『どうせ、まだ家なんでしょ?』 
『ヴェ…。う、うん、』
『はぁ、待っててあげるから早く来てよー。』
『ごめん、ありがとね!』
そう言って電話を切り急いで準備をして家を出た。
「いってきます」
誰もいないとわかっていても家を出る時や帰ってきた時についつい言ってしまう。いつか返事が返ってくればいいな。

「ごめん、お待たせ!」
「うん、すごい待った」
「ご、ごめんて」
「うそうそ、いーよ別に」
二人並んで歩き出す。行先はいつものファミレス。特に買うものもないし、買うお金も持っていない。だからいつもファミレスで飲み物1杯頼み何時間も喋り続ける。店内が混んでいる時はすぐに店を出てどちらかの家に行くけど私らの行くファミレスは人気がなくていつもガラガラの状態。
カランカラーン
「いらっしゃーーい。あ、梨沙ちゃん希華ちゃん」
「こんにちわー、いつものください」
「はいよーごゆっくりー」
客が少ないこの店では何度も来ている私たちは顔馴染みなようで『いつもの』というだけで飲みたいものが通じてしまう。まるでどこかのセレブみたいだ。
空いている店内の一番窓際の後ろの席が私たちの場所。まあ勝手に決めているだけなんだけど。その席に座ってしばらく談笑していると飲み物が来て暇だという店員の幸さんも交えて話をする。幸さんは最近結婚したようで幸せ真っ只中なのだ。そんな幸さんの惚ればなしを長々と聞いて笑い合うのが割と楽しかったりする。
「こらゆきー!またサボりよったな!」
「げ。てんちょー。」
「ほれほれ仕事せい!ただでさえ店員が少ないんじゃから!」
「はいはーい。んじゃ、またね!」
幸さんは毎回店長に見つかって仕事に戻されている。客が少ないからやることないけど、とボヤきながら仕事に戻っていく様子を笑いながら見送る。店長と幸さんはとても仲が良くて年の差はかなりあるけどいつも賑やかに話している。
「あ、ところで梨沙。」
「え?なに?」
笑いが収まりきっていなかった私に急に真面目な顔になった希華が話しかけてきた。あまりに真剣な表情に収まらなかった笑いもすぐに収まる。緊張した中で希華が静かに口を開いた。店内は幸さんたちの声で賑やかだったのに急になにも聞こえなくなって希華の声だけが耳に響く。
「今日は、梨沙にはっきり言いたいことがあって」
「う、ん……」
声がかすれてうまく出てこなかった。希華はずっと机を見つめていて今どんな表情をしているのかがはっきり見えない。それが余計に鼓動を早くする。
「私、佑久が好きなの知ってるよね。…だから梨沙には近づいて欲しくない」
「……え?」
確かに希華が幼い頃から佑久に惚れていることは知っていた。けど私と佑久が幼馴染みで希華に会う前から一緒に過ごしていたことを希華も知っているはず。それなのに、どうして急にこんなこと……
「どうし___ 」
「だって、梨沙がいたら私は佑久に見てもらえない!」
「っ……なに、それ」
「梨沙はいいよね!?佑久と幼馴染みだからっていつも一緒にいられてさ、いつも佑久佑久って」
「私、そんな佑久に頼ってなんかないよ」
「頼ってるよ!何かあればすぐに佑久って言っていつも佑久のそばには梨沙がいて、私の入る隙間がないじゃない!」
「なっ、ほんと、なにそれ……っ」
「〜っ、もういい!私が梨沙に近づかない!でも梨沙が次佑久に近づいていったら許さないから!」
いきなり叫び始めた希華は言いたい放題言いまくってそのまま店を出ていった。ひとり取り残された私はしばらくそのまま動けなかった。幸さんや店長が何事かと私のところへ来たけれど2人が放つ声は私の耳には届かなくて希華の苦しげな声や今にでも涙が溢れてしまいそうな潤んだ瞳が脳裏に焼き付いて何度も繰り返し再生される。
「な、んで……」
ぽつりと呟いた言葉を最後に私の意識は途切れた。