『死にたい……っ』

「ッ……!?」
突然頭の中に響いた苦しげな声。
俺はその声をどこかで聞いたことがある気がした____
目を開ければそこにはもう何回も見た天井が広がっていて自分が今まで寝いてたことを知らせてくれる。
「んだ?今の声…。夢か?」
ふと辺りを見回すが見慣れた自分の部屋の光景が広がっているだけだった。頭を掻きながらベッドから起き上がり着替えはじめると下の階からうるさい母親の声がした。
「たすくー!!いい加減起きなさーい!!」
「もー起きてるよー!!ったく…」
さっさと学校に行く支度をして一階に降りると少々御立腹な母親がいた。
「え、なに。なしたの」
「梨沙ちゃんもう行っちゃったよ!?」
「あー、そっか。あとで謝っとくよ。」
"梨沙ちゃん"ていうのは俺の幼なじみで幼稚園から今の中学までずっと一緒にいる奴だ。特に約束をしているわけでもないが学校への登下校は一緒にしている。なにか話すのか、というわけでもないしただの腐れ縁てやつだろうか。昔から一緒にいるからか気を遣わなくていいから割と楽ではある。
スマホで梨沙に謝っていると横から母がまだなにか言いたそうな顔で見てくる。はあ、とため息をひとつこぼしてから梨紗とのトーク画面を見せる。
『梨紗ー、悪い。寝坊した。』
『もー遅いよ!(`‐ω‐´)別にいいけどね!( *˙ω˙*)و グッ!』
梨沙との会話を見てようやく母も気が済んだようで朝ご飯を出してくれた。
「梨沙ちゃんてほんと女の子らしいわねー」
すっかり上機嫌な母は食器を洗いながら話し始めた。梨紗が女の子らしい、か。まあ確かに会話の終わりに顔文字つけるところとかは女らしいと思うけど。あーあといつも綺麗に結んであるポニーテールとかは可愛いな、と思うかな。けど行動は女というかむしろ男らしい。俺が想像する"女の子らしい"とはちょっと違う気がするんだよな。大食いだし声でかいし運動神経よすぎだし勉強出来なさすぎだし……。
「母さんが思ってるほど女らしくはないぞ、あいつ」
食パンをくわえながら返すと母にギっと睨まれる。
「なーに言ってんのよー!あんなカワイイ子他にいないわよ?佑久も頑張んなきゃ」
「そうなのかなー。まあいいけど。てか頑張るって何を……あ、やべそろそろ遅刻する」
食パンを勢いよく口の中に詰め込んで急いで玄関に向かう。母もバタバタと俺のカバンを持って見送りに来てくれた。
「はい、カバン。遅刻しないでよー?」
「おう、さんきゅ。んじゃ」
へいへい、と返事をしながら玄関の扉を開けた時にふと朝のことを思い出した。
「母さん、そういや今朝……いやなんでもね。行ってきます」
「えっ……えぇ?」
戸惑う母を置いて扉を閉めて学校に向かって走り出す。