冬が本格的になってきたとある土曜日

その日は土曜講座も無く、平穏な休日

優奈はコントローラーを握りしめ、真剣な顔をしていた。
指先を器用に動かしながら、ボタンを押していく。

衝撃を受けたせいか、何度もコントローラーがブルブル震えた。

「やばっ、ちょ!」

声を漏らしながら、優奈は何とか切り抜けようと必死にボタンと十字キーを使う。

「これで…終わりだ!」

優奈の努力は虚しく泡と化す。

敵からの攻撃をまともに受けた優奈は吹き飛び、場外へと飛び出していった。

「ぁあー!!また勝てなかったぁ!」

「ふははっ!!まだまだだな、優奈!俺の勝ちだ!!」

落ち込む優奈とは裏腹に、満足気に笑う少年がそこにいた。

「ちょっとは手加減してよ、悟!!」

「ゲームとは真剣勝負、手加減は相手に対して失礼だ」

笑いながらそう告げる少年、悟。

悟は幼い頃、優奈のお隣に住んでおり言わば幼馴染である。
家族ぐるみの付き合いで、何度も互いに家を行き来していた。

中学生の時、親の仕事の都合で悟が先に東京へ引越し、そして今回、優奈が東京に来たという事で、再び交流が始まった。

「そう言えば今度また昔みたいにホームパーティーしたいって、母さんが言ってたぜ」

「え?!いいの!やった!」

「てか、前から思ってたけど、優奈の家族もこのマンションに住めばいいのに。そしたらいつでも遊べるのに…」

「親の通勤時間の都合で…。でも悟が紹介してくれた所、凄くいいよ!」

「当たり前だ、良い物件選んだから」

悟の祖父は不動産を営んでおり、今回優奈に貸した家は悟の所有物の一つである。

東京で二階建ての一軒家

実際に借りれば相当の金額がかかるが、破格で貸してくれている。

「そう言えば優奈、最近変な夢は見ないのか?」

「夢はまだ見るけど、だいぶマシになってきたよ」

悟にも夢の話はしており、何かと1番相談に乗って貰っている。

黒髪、黒目、爽やかな笑顔が目立つ好青年

それが悟の第一印象だ。

普段からゲームばかりしているが、実は運動、勉強も得意、手先も器用で、ある意味完璧人間、男女共に人気が高い。

本人は運動、勉強はゲームをやる上での一環としてやっているつもりらしいが……。

(幼馴染じゃなきゃ、こんなに仲良くなれないよな…)

「ん?何?俺の顔に何かついてる?」

「口元から涎出てるよ」

「ぇ?!」

「嘘」

「嘘かよ!」

悟は少し顔を赤らめながら、ティッシュで口元を念の為拭く。
素直な部分は昔から変わらないみたいだ。

「んな事より!早く夢の続き教えろよ!気になってるんだから!」

「悟が期待するような内容じゃないよ?!んー…どこから話せばいいのかな…」


優奈は思い出しながら、悟に語り始めた。