「……そこを右に真っ直ぐ進め。そしてそのまま外に出ろ」

「……」

右に曲がれば、そこはこの村の出口だ。

(出ても出なくても殺される…。どうしよ…ライナ、ルーシー…どこ行ってるのさ…)

外に出るより、まだ村の方が生存率が高いであろう。

ならば出ると見せかけて、逃げ込む方がいいのではないか

優奈はそう考えた。

(もう少し…もう少ししたら…逃げるぞ)

脈が異様に早く、己の心音がやけに耳に響く。

薄らと冷や汗を浮かべながら、優奈は1歩ずつ、ゆっくりと進んでいく。

「おーい、お嬢ちゃん。1人でどこに行くの?」

声が聞こえる方に振り返ると、宿屋の亭主が居た。

「お仲間も連れずに行くのは危ないぞ?外には魔物がうじゃうじゃいるからな」

「いやー…このシオンって子供が、外に行きたいって言うから…」

「子供?」

亭主は優奈の背後を見た。
眉をひそめ、不思議そうにしていた。

優奈は亭主の反応に不安を覚えた。

「ど、どうしたの?」

「いやー…子供って…言ってたけど、子供何か居ねぇよ?」

「え?」

優奈が振り返る。
確かに自分の背後には、シオンがいた。

「いや、ここ!ここに小さい子供いるから!」

「何言ってるんだよ!お嬢ちゃん!幽霊みたいな事言わないでくれよ…まだ日は出てるんだぜ?」

「……おじさん…シオンが、見えてない…?」

優奈は恐る恐る後ろを振り返る。

紅い瞳が怪しく輝き、満面の笑みを浮かべていた。
少年とは思えぬ、残酷な微笑みだった。

「ボクは他の人には見えないようにしてるんだ。だから、誰も助けてくれないよ?」

「……っ!」

優奈はゴクリと生唾を飲み込む。

逃げられない

優奈の身体から鳥肌と冷や汗が一気に吹き出した。

「お嬢ちゃん、どうした?顔色が悪いぞ」

「ぁー…。えと、すいません。ちょっと勇者さんの依頼で、少し外に出ないと行けなくて…。帰り遅くなると思います…」

当たり障りの無いように言葉を選び、優奈はそそくさとその場から離れた。

「逃げなくて正解だったね、異世界の子供さん」

くすくすと楽しそうに微笑むシオンに、優奈はただ従うことしか出来なかった。

(……ライナ…助けてよ…勇者でしょ…)

優奈は足をゆっくり進ませ、シオンと共に村の外へと出て行った。


村の外は結界外、魔物が彷徨く危険地帯である。