勇者一行は町から必要な物資を揃えた後、移動魔法で一番近いとされる村へと訪れた。

そこは小さな村だが、とても活気に満ちていた。

村に来てまずは宿屋へと向かった。
優奈、ライナとルーシーとなるように2部屋確保した。

「この村には結界が張っているので、外に出ない限りは安心だ。扉が開きつつある為、結界の外には多くの魔物がいる可能性があるから気をつけろ」

「ひぇ……」

「大丈夫、ルーシーの作った結界は本当にすごいから、余程強い敵でない限りは壊れないよ」

ルーシーの説明に怯える優奈をライナは優しくフォローする。

「そんなに怖がるな、いい物を作っといたから手を出せ」

ルーシーは優奈の手の上にネックレスを置いた。
細めの革の紐と翡翠の石で作られた、シンプルな物であった。

「これは聖水と俺の魔力を込めた物だ。弱い魔物は近づけないし、何かあれば守ってくれるだろう」

「あ…ありがとう…」

「そんなにずっと怯えていたら最後までもたないぞ?適当に力を抜け。抜き方はライナに聞くといい」

ルーシーはそう告げると、ライナに後は任せたと告げ、部屋から出ていった。

「ルーシーってちょっと掴み所が分かりにくいけど、良い奴なんだ」

ライナは苦笑を浮かべながらそう告げると、優奈に出来たての温かいお茶を手渡した。

「ありがとう…。ねぇ、ライナから見たルーシーってどんな人?」

「んー…最初は取っ付き難いってイメージだったけど、割と融通きくし、面倒見もいいよ。まぁ、敵には回したくないけど」

「確かにあんな黒い笑みをみたら、敵にしたくないって本気で思える」

意地悪な黒い笑みを浮べるルーシーの顔を思い出した優奈は、激しく首を縦に振る。

「ルーシーは怒らせるとジワジワと追い詰めてくるから、怖いんだよ…。あ、賢者と占い師の能力は本当に凄いから、頼りになるよ!」

「……ふぅん…」

優奈は半信半疑でライナの話を聞きながら、お茶を再び啜る。

まったりとしたお茶の味を堪能している中、ふと優奈の中で疑問が浮かんだ。

「そう言えば…ライナって2人でずっと旅してるの?」

ほんの一瞬だった。

ライナの目の色が変わった。


寂しそうな瞳の輝きが妙に印象的だったのを今でも覚えている。


「今は2人だよ。皆各々の帰る場所があるからね」


ライナは蒼い瞳を閉じ、少し冷めたお茶を静かに飲んだ。