あれっ?

さっきまで座っていた席にいなくなっている。

「樹~田中先生は~?」

「紗英ちゃん?紗英ちゃんなら職員室だよ。
早退届けを取ってくるって。」

紗英ちゃん?!

紗英ちゃんって………田中先生のことか??

言っちゃあ悪いが………おばさんだよ??紗英ちゃんって……。

コイツの守備範囲の広さに、さっき望月さんが言っていた

恋愛相談の件を思い出す。

確かに………恋愛したら、樹に相談するのが正解かもな。

樹の理解出来ない恋愛事情に驚きながら

さっき聞いた『早退届け』に安堵する。

俺が今、田中先生を探してたのも……この届けを貰うためだ。

今日の午後は、授業が入っていないから送って行ける。

家族や姉ちゃんのことも、話せるなら聞きたいし

帰った後、一人なのか………看てくれる人がいるのか………

この目で確かめたい。

帰ってきた田中先生が

「伊藤さん起きてる?
あっ、経口補水液……買って来てくれたのね。
あれっ?樹、どうして焼き肉弁当まであるの??
あっ、プリンとゼリーも。
もう、相変わらずなんだから。」とお母さんのような小言を

樹に向かってぶちまける。

えっ??………あれっ?!……………えっ!!

樹~???………紗英ちゃん???

二人のますます怪しい関係に、眉間にシワを寄せてたら

「和君、君………変な想像してないよね??
この人は、母ちゃんのお友だち。
いくら俺でも、定年間近のおばさんは~」

「樹!!」

「ほら、紗英ちゃん。
怒るとシワが増えちゃうよ。
ちぃちゃんも和君も、俺と紗英ちゃんの関係はナイショね!
二人だから、信用してバラしたんだから。」

クスクス笑う彼女の頬は、経口補水液のお陰か………

もしくは、樹のお陰か………少し赤みを取り戻していた。

「田中先生、私……午後の授業がないので送って行こうと思うのですが。」

「あら?私が送って行こうかなぁと………」

「いえ、担任として帰った後の様子も知りたいので
家庭訪問を兼ねて行ってきます。」

「紗英ちゃん、和君に行かせてやってよ。」

樹の後押しもあり、俺が送って行くことになった。

「荷物を取りに行って、車を回してきます。」

「張り切っちゃって~」

樹の呟きは聞こえず、指摘どうり階段をかけ上がった。