いよいよ始まった中間考査。

ペンを走らせる音だけがサラサラと響く。

三時間目の今は、樹が心を込めて作ったと豪語する国語だ。

監督をする俺は………一通り見て回っているが

『さすがわが校の生徒』と思うくらいどの子もよく勉強していて

テストを放棄して、ぼぅ~っとする子は見当たらない。

カンニングなんてもちろんする子もいないから、この時間は退屈だ。

一生懸命頑張っている生徒には申し訳ないのだが……

俺の一番の仕事は、欠伸を噛み殺すことなのだ。

後ろに回り全体を眺めていると右手をあげる生徒が。

試験の邪魔にならないよう、教師に用がある時は手をあげることになっている。

手をあげたのは伊藤さん。

消しゴムが落ちた訳ではない。

テストも早々と終えて、裏返して窓の外を見ていたのだ。

不思議に思いながら近づいてみると……

答案用紙の裏に

『今日の放課後、この間のご褒美をもらいに行っても良いですか?
部活の後なので………4時頃です。』と書かれていた。

チラリと見上げる目が真剣だったから、ご褒美という名の相談だろうと察する。

答案用紙を指して間違いを指摘するように

トントンと動かして手紙の書いてあるところを示し

さりげなくOKのマルを、親指と人指し指で作った。

見上げた顔は、先ほどより幾分和らいで安心した表情を見せている。

今日でテスト期間が終了する。

ラストの今日は、部活がない生徒は羽を伸ばし

部活のある子は……久しぶりのクラブを楽しむ。

俺達教師は…………

採点という地獄の睡眠不足が始まるのだ。

そんな状態なので、本来なら断っていたのだが………

この生徒を今断ると………取り返しのつかない何かがおこる気がしたのだ。