「先生~おはようございます。」
「キャ!!こっち見た。」
「先生~!」
私立桜倫女子高等学校に勤めて4年。
登校して来る生徒達による、毎朝の恒例行事。
若い教師の少ない女子高によくある行動だから、たいして気にしない。
そろそろ、この黄色い声にも慣れ始めた4月。
俺は、教員生活初の………クラス担任を任された。
『2ーC』
このクラスが、これから1年………共に成長していく子供たちだ。
クラスに入ると、黒板にあった席順どうり全員席に着いている。
さすが、お嬢様達だ。
ざっとクラス全体を眺めると
去年まで、数学を担当していた子が多く………見覚えのある顔が並ぶ。
先程の始業式で、校長から紹介を受けていたせいか
朝、登校する時に聞こえる歓声はない。
代わりに
ヒソヒソ、コソコソ………あちらこちらで囁きが聞こえる。
「今日から、このクラスの担任になった……石井和也です。
初めての担任に、正直……少し戸惑っていますが
これから、将来を決める大切な時期に入っていくので……
不安や疑問、質問など何でも気軽に相談してください。
それでは、出席を取ります。
名前を呼ばれたら、簡単な自己紹介をお願いします。」
順に名前を呼ぶと、好きな教科や食べ物等を話してくれる。
周囲から『お嬢様学校』と噂されているこの学校は
基本的に素直な子が多く、おっとりのんびりとしている。
学業もレベルが高く、大学もついているから………
殆どの子が、そのまま進学する事になる。
そのため、教師は熱血指導する必要もなく………授業を上手くこなしていれば
さほど問題はない。
………………………と、この時は……………思っていた。
まさかこのクラスに、俺のこれからを揺るがす存在がいるとは。